成長期の投球障害保存療法

一般的な成長期の投球による肩・肘障害の保存療法

成長期の投球による肩・肘障害の多くは保存療法で対処可能です。
まずは問診により、野球歴やポジション、投球数や練習時間を聞きます。
その時にオーバーユースの要素があった場合は、推奨される投手の投球数や練習時間を指導する。
病院(整形外科)レベルでは、一定期間のノースローにより筋疲労を除去し、必要に応じて非ステロイド性抗炎症薬の投与、注射療法、物理療法により局所の炎症を軽減させます。
そして下肢・体幹のエネルギーを十分利用し、そのエネルギーを上肢に効率よく伝え、連結部にあたる肩関節に過度の負荷をかけないようにするために、理学療法として全身のリコンディショニングと投球ホームの矯正を行います。
特に股関節と肩甲骨の動きの改善が重要です。
ただし小・中学生が理解できる指導を行い、極力学校生活に支障がないようにホームエクササイズを基本としています。

オーバーユースの改善

肩・肘関節を含めてまだ筋・骨格が未成熟な成長期の野球選手において、投手の試合での全力投球数や全体練習時間にある程度の制限を設け、寒い冬季には試合を控え他のスポーツを行うことが必要です。

 

◎1995年アメリカにおいて推奨されたガイドライン

推奨される最多投球数

年齢(歳) 最多投球数/試合 最多試合数/週
8~10 50球 2試合
11~12 65球 2試合
13~14 75球 2試合
15~16 90球 2試合
17~18 105球 2試合

 

◎日本で1995年臨床スポーツ医学会で推奨されたガイドライン

青少年の野球障害に対する提言

練習日数・時間 小学生 2時間/日、3日/週以内
中学生・高校生 1日/週以上の休養日
全力投球数 小学生 50球/日、200球/週以内
中学生 70球/日、350球/週以内
高校生  70球/日、350球/週以内

野球肘(11~12歳に発生のピーク)
野球肩(15~16歳に発生のピーク)
・試合の翌日はノースロー
・投げ込みの翌日は投球数を減らす
・1日2試合の登板は禁止

これらの投球制限を裏づける有意な変化を検出できてはいませんが、投球による肩・肘障害の発生状況を踏まえると投球数の上限規定は日米でほぼ同様であり、妥当性が高いと思われます。
しかし、日本の少年野球の現場においてはほとんど守られていないのが現状です。
エリート選手の養成にはある程度の練習量は必要という意見もありますが、能力の高い選手ほど、投手に抜擢され試合出場機会も増えるため、障害発生の危険性が高いといえます。
少なくとも小中学生のうちに有望な選手が肩・肘関節を壊して、その後の野球活動に支障をきたす事態は回避すべきことだと思います。

下肢・体幹のストレッチと機能訓練

下肢・体幹のストレッチを実施している選手は多いが、有効なストレッチができていることは少なく、正しいストレッチ方法の指導が必要です。
一方、下肢・体幹の柔軟性には問題ないにもかかわらず、下肢・体幹の機能が十分使えていない選手もいます。
そうした場合は、いわゆるコアな筋肉や股関節周囲の機能不全がかかわっているとされています。正しいスクワット訓練や腹・背筋を含めたコアマッスル・股関節周囲筋の機能訓練により下肢・体幹の機能を十分に活用することが可能になります。

肩甲胸郭関節の周囲筋機能訓練

投球動作中に肩甲上腕関節への過度なストレスをかけないためには、ステップ脚が地面に着地した時に十分に肩甲骨が内転し、コッキング後期からボールリリース時に十分な上方回旋する必要があります。
肩甲骨がその滑走路に当たる胸郭の上をスムーズにかつ十分に働くために、胸椎や胸郭のストレッチングを行い、肩甲骨の上方回旋を妨げる、小胸筋、上腕二頭短頭、烏口腕筋などの筋緊張を緩和させる必要があります。
肩甲骨を胸郭上で動かし安定させる肩甲骨周囲筋である僧帽筋、前鋸筋、菱形筋などの機能訓練も必要です。

肩甲上腕関節のストレッチと腱板筋機能訓練

肩後方軟部組織のタイトネスに対しては、後方の筋肉を伸長させるセルフストレッチを推奨していますが、リハビリ分野では※CKC(Closed Kinetic Chain)手技を取り入れています。
※CKC(目的とした筋肉をアプローチすることで運動連鎖を修正する)
パートナーストレッチも有用性が高いものの、通院が必要になるため比較的簡単なストレッチ方法が提案されています。
また腱板のトレーニングは、肩甲骨運動がみられない範囲の強度を確認し、その強度の範囲内で実施するように無負荷またはチューブ訓練を指導しています。

回内屈筋群のストレッチと筋力訓練

回内屈筋群のストレッチとチューブ訓練による筋力強化を行う

  • 回内屈筋群ストレッチ
  • 回内屈筋群ストレッチ
  • 回内屈筋群チューブ筋力訓練

投球ホームのチェックおよび矯正

投球ホームに問題がなくコンディショニング不良が原因で投球フォームを崩していた選手は、リコンディショニングで投球ホームも自然に改善するが、多くの選手は投球ホーム自体に問題を抱えている。投球フォームに問題がある選手は、いくらリコンディショニングにより体の柔軟性や筋力を回復させたとしても、不良なフォームで投げることにより肩・肘関節にオーバーストレスを加えてしまい、いずれ症状は再発する。そこで投球フォームへのアプローチも必要となります。
投球動作は短時間の高速運動であるため、内眼的なチェックには限界があります。
当院では患者さんとラインで動画のやり取りをしたり、実際に家庭用ビデオやスマートフォンで投球動作を撮影してもらい来院時にチェックを行っています。

 

・コッキング初期

このときの「軸脚の股関節を入れる」という軸脚股関節の使い方が最初のキーポイントとなります。軸脚の股関節と膝関節を同程度に屈曲して両側の内転筋を緊張させながらステップ脚股関節の適度な内旋も入れることがコツです。この股関節が入ると体幹の後傾がなくなり上肢のポジショニングも安定し、重心移動も十分使えるようになります。

 

・フットプラント(ステップ脚が地面に着地した時)

このときのいわゆるトップポジションは、その後の投球フォームに大きな影響を及ぼすこと、本人が動作の意識をしやすいタイミングであることから重要な意味を持ちます。軸脚膝を十分に伸ばして重心移動しステップ脚股関節で踏みとどまること、グローブ側の肩関節の内旋により「体の開き」を抑制すること、投球側の適度な肩関節の外転・内旋と適度な肘の屈曲による「上肢が横S字を形成するトップポジション」をつくることなどが重要になります。

 

・加速期~ボールリリース~フォロースルー期

ステップ脚の股関節を軸として体幹の前方回旋運動を十分に行い。そのエネルギーにより「腕が振られる」運動を誘導します。
観察された問題点に対するアプローチとしては、まずその後の投球動作に影響を及ぼすワインドアップ時の姿勢不良を矯正します。次に重心移動、体幹回旋、そして上肢の使い方という順番に指導します。投球動作の運動要素における姿勢や肢位、および体の使い方を学習するために各期における運動別にシャドーピッチングによる動作トレーニングを行い、一連の投球動作につなげていくように勧めます。

 

投球フォームチェックシート(※参考)

ワインドアップ期 早期コッキング期 加速期 フォロースルー期
姿勢

四肢

体幹の相対的位置

上肢 ・ボールと頭部の距離

・投球側の肘の位置

・グローブの位置

・投球側の肘の位置

・グローブの位置

・投球側の手の位置
体幹 体幹の傾斜 体幹の傾斜 ・骨盤の回旋

・体幹の回旋

・体幹の回旋

・体幹の前傾

下肢 軸足の方向、ステップ脚の挙上 ステップの方向 ステップ脚の膝の方向 ステップ脚の膝の方向

 

きむら鍼灸整骨院

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