成長期の投球障害

成長期の投球障害の要因

成長期の小学生・中学生で投球による肩・肘障害の要因は、成人と同様に

①オーバーユース
②コンディショニング不良
③不良な投球ホーム

であるが、成長期にはそこに成長期特有の体の特性、成長スパートの影響、未熟な投球動作、経験不足の指導者の存在や試合・練習日が土・日に集中するなどの環境要因が加わる。

成長期の体の特性

子供の肘レントゲン

子供の体は単純に大人の体を小さくしただけではなく、成長期特有の解剖学的特性を有していることに配慮する必要がある。弱点としては成長軟骨が存在すること、腱、靭帯付着部にも軟骨が存在しているため弱いこと、成人に比べて骨が未成熟で強度が低いこと、筋力が未発達であることなどがあげられます。
間接的な危険因子として、成長スパート期の男子では体幹・下肢の柔軟性低下があること、同年齢でも体格や成長のスピードにばらつきがあることがあげられます。
特にこの時期の体の大きな選手は急速成長のために下肢・体幹の柔軟性がかなり低下しています。一方で、肉体的・技術的に未熟でも体の大きさから、小さい選手より早い投球ができるため、投手・捕手というストレスの大きいポジションにつくことが多く、そのため、ほかの選手以上に注意が必要です。

オーバーユース

日本はアメリカなどに比べると、練習時間や試合数などは多い傾向です。
試合数の統計を見てみると、小学生軟式野球チームにおいて小学5~6年生の年間の試合数は100試合以上に及びます。
試合も土曜日・日曜日・祝日でこなし、1日に2~3試合行うこともあります。
さらに小中学生においては、積雪地域を除くとオフシーズンがない。体が成熟した高校生以上では冬季には試合はなく投手も投球活動を控えているのに、体が未成熟な小中学生が年中野球活動を行い、寒い冬季でも投手は全力投球をしている。
アメリカなどでは冬季の間は野球から離れてバスケットボールやフットボールなど他のスポーツを行うことで、体の限定した部位へのストレスの集中が避けられ、バランスのよい体づくりができています。

コンディショニング不良

①下肢・体幹のコンディショニング不良

投球障害肩・肘を生じている野球選手の多くに下肢・体幹の柔軟性の低下やコアマッスルの機能不全を認める。
大腿四頭筋、ハムストリングス、背筋、腸腰筋の柔軟性はそれぞれのテスト法で評価されるが、野球選手ではいずれも高率に柔軟性が低下している。
子供の体は柔軟で、運動をしていない大人よりバランスがとれていると思われがちですが、背筋や腸腰筋が硬く腰痛前彎が強い選手や、股関節周囲の筋肉が硬いので正しいスクワットや安定した片脚立ちができない選手が多くいます。
また柔軟性だけでなく体幹から股関節周囲の安定性低下がみられます。
下肢・体幹機能の低下があると下肢・体幹からのエネルギー出力が低下して、運動連鎖的には積み木の土台が崩れてしまうこととなり、全体のパフォーマンスいわゆる球速の低下につながります。
選手は球速を保つために腕を強く振ることで球速を保とうとして結果的に肩や肘のオーバーユースにつながります。

 

②肩甲胸郭関節のコンディショニング不良

投球障害肩の症例では、肩甲骨の固定性や運動性が損なわれていることがしばしば確認されます。広背筋、僧帽筋下部線維、前鋸筋など肩甲骨周囲筋の機能不全や伸張性低下があると、肩甲骨の胸郭上での可動性や安定性が低下し、肩甲上腕関節の水平伸展や水平屈曲などの動きを過剰に使うことになり肩甲上腕関節の障害が起きやすくなってしまいます。
またコッキング後期での肩関節外旋時において、肩甲上腕関節の外転・外旋以外に胸椎の伸展と肩甲骨の上方回旋・後傾が肩の外転・外旋角度の確保に関係しており、胸椎伸展や肩甲骨後傾が減少すると肩甲上腕関節に過剰な外転・外旋ストレスや肘関節外反ストレスが生じてしまいます。
成長期の選手の中にもいわゆる猫背で肩甲骨が下方回旋気味で肩関節挙上が十分にできない選手をよく見かけますので注意が必要です。

 

③肩甲上腕関節のコンディショニング不良

投球動作によって繰り返される肩関節の負担により、野球選手の投球側肩関節可動域には特徴的な変化が生じます。
肩関節の外転90度外旋角度(外転外旋)の増大、外転90度内旋(外転内旋)・外転90度外旋内旋総可動域・屈曲90度内旋(屈曲内旋)・水平屈曲・肩甲上腕関節の減少を起こします。
こうした肩関節可動域の変化は野球を開始して間もない小学生からすでに認められ、同世代のサッカー選手にはみられないことから、野球選手に特異的な現象であることがわかります。
この可動域変化は骨性の変化も要因であるが、軟部組織(筋肉・腱・靭帯)の要素がある程度関与していると考えられます。
少なくても小学生においては軟部組織の要素が可動域減少の主因で、外転外旋の増大は潜在的前方不安定性、外転内旋・屈曲内旋・水平屈曲の減少は後方タイトネスという2つの問題が肩関節局所で生じていることを示し、これらは投球障害肩・肘の病態に密接に関与しています。

 

④回内屈筋群のコンディショニング不良

小学生高学年以降の、特に投手において回内屈筋群(手首を曲げる・ドアノブを左側に回す筋肉)の筋伸張性低下や疲労のし易さを認める選手をよくみかけます。
これは肘関節内側障害の発生因子となります。

 

投球動作

⑤不良な投球フォーム

技術的な不備である不良な投球ホームで投げることでも障害が発生します。
ただ前述したコンディショニング不良が原因で投球フォームが不良になっている場合もあるため、コンディショニングの評価と併せて検討する必要があります。
代表的な不良フォームには

  • コッキング期で肩甲上腕関節の水平伸展ストレスを増強する「体の早い開き」
  • 肩甲上腕関節に最もストレスが加わり後期コッキング期~ボールリリースにおいて※ゼロポジションを逸脱する「肘下がり」
  • ボールリリース前後で肩関節内旋を過剰に使う「内旋投げ」
  • 体幹の回旋動作が不足して肩甲上腕関節を支点とした水平伸展から水平内転運動を過剰に使う「手投げ」

※ゼロポジション→肩甲骨の肩甲棘と上腕骨のが一直線になった位置

これらの問題点は、単一で存在することは少なく複合していることが多いです。
たとえば、「体が早く開く」と投球側の肘を背側に残しておこうとするため、コッキングで過剰に投球側の肘を引き込み、肩の水平伸展を生じ、その結果、投球側の肩の挙上が十分できなくなり「肘下がり」を招きます。
肘下がりでは肩甲骨上方回旋が不足し肩のしなりを使えず、「内旋投げ」で投球してしまいます。
ただし、こうした上肢のポジショニング不良の基盤には上肢の使い方以外に股関節・体幹の使い方の問題が潜んでいることが多くあります。
また、肩より末梢である手関節や手指の使い方の関係も報告されていますし、当院でもここまでアプローチしていきます。
手関節の背屈・掌屈を使った投げ方、ボールを親指の指腹で握ることが「肘下がり」や「内旋投げ」を誘発するといわれています。